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第一回 ハラスメント対策・防止のルール策定に向けたレクチャー・ワークショップ レポート報告

2023/07/20

レポート報告

ハラスメント対策・防止のルール策定に向けたレクチャー・ワークショップ

2023/06/12 @stiffslack

当店では、2023年6月12日に、ジェンダー・セクシュアリティの専門家である堀あきこさん(関西大学他非常勤講師)を講師としてお迎えして、「ハラスメント対策・防止のルール策定に向けたレクチャー・ワークショップ」を開催しました。その内容についてご報告いたします。

前半は、堀さんによるレクチャー、後半は参加者を4グループにわけてケースを検討するワークショップという形式で開催しました。

1 レクチャー

前半のレクチャーでは、堀さんから、(1)ジェンダーとハラスメント、(2)対等な関係と同意、(3)ハラスメントが発生した時にといったテーマ題材でお話をいただきました。

まず、ハラスメントという概念について、様々なハラスメントの種類をご紹介いただいたうえで、ご説明いただきました。

特に、セクシュアルハラスメント(職場や教育の場などにおける、相手の意に反する不快な性的言動によって生じた権利侵害)に関しては、不快か否かは受け手の主観に委ねられているので、受け手が「不快に感じ」ていれば、セクシュアルハラスメントになる可能性がある一方で、セクシュアルハラスメントに当たるかどうかの判断は、一定の客観性が必要となるといったポイントをご説明いただきました。

また、ジェンダーハラスメント(性別役割分業や性役割など、性別により社会的役割が異なるという固定的な概念(ジェンダー)に基づいた差別や嫌がらせ)については、ジェンダーという言葉の定義から、社会的に作り出された性差(ジェンダー)によって不利益が発生するという構造的な問題であることを解きほぐして解説いただきました。

さらに、ジェンダーが作り出した「男らしい」「女らしい」などの固定的な性役割や、「男は仕事、女は家事育児」などの性別役割分業を当然とする言動が、セクシュアルハラスメントの原因や背景にもなっており、非対称性のある男女の関係を互いに優劣、上下などの差がない対等な関係へと変化させていくことが、セクシュアルハラスメントをなくしていくための大切な視点であることを教えていただきました。

また、実際にハラスメントが発生した場合に、被害を受けた人の立場、相談を受けた人の立場、ハラスメントの発生に気づいた人の立場からどのように行動するべきかについて、具体的な対応方法のヒントをご提示いただきました。

 

2 ワークショップ

後半のワークショップでは、ライブハウスでの「あるある」として5つのケースを設定し、数人のグループにわかれて、1つのケースを選んで、(a)放置するとどのようなことが起こりそうか(A子の立場から)、(b)その現場を見た自分は、何ができるか(何をしてはいけないか)という二点を議論し、グループごとに発表することになりました。

■設定された5つのケースは、下記のとおりです。

【ケース①】

A子がトイレ(男女共用)から出ると、扉の前で顔見知りの男性先輩が並んでいた。挨拶して出ようとしたら、ふざけながら通せんぼする格好でA子の前に立ちふさがり、そのまま話を始めて、トイレから出られない。

【ケース②】

A子がカウンターで飲み物を注文していたら、あまり親しくない人が、しつこく「奢るよ」と絡んできた。無視しても断ってもしつこく、他の人の迷惑になってしまいそう。

【ケース③】

ライブ中、やたらと対人距離(パーソナルスペース)が近い人がいて、A子に顔を近づけて話してきたり、体を寄せてきたりして、不快。離れても、また距離を詰められるのでどうしていいか分からない。

【ケース④】

ライブ中、出演している女性のバンドメンバーに、ずっと「◯◯、かわいい~、付き合って~」「今日の格好セクシー」などと言っている客がいる。そのメンバーのMC中も叫び続けていて不快だが、周囲の人は笑っているので、A子が何か言うと雰囲気が悪くなりそうで我慢している。

【ケース⑤】

ライブ後、帰宅しようとしていた時、久しぶりにあった男性先輩から「打ち上げに行こう」と誘われる。A子が「明日、早いんで」と断ってもしつこく誘ってきて、周囲も「おいでよ」ばかりで断りきれない。今度、先輩のバンドも出るライブに行くつもりだから、波風たてるのも気が引ける。


■また、グループで議論を行うにあたってのグランドルールとして下記のルールが設定されました。

【グランドルール】

・人の意見を最後までしっかりと聞く。途中で遮ったり、自分の意見にこだわったり、否定的な表情や態度ではなく、尊重すること。

・発言する時は自分の考えや根拠を明確にする。感情的になったり、一方的に主張したりせず、相手が理解しやすいように話すことを心がける。

・無理して話さなくてもよい。沈黙はOK。

・ハラスメントに該当するような言動は絶対にしない。

・公平性を保つために、一人で長々と話し続けない。

・話した内容は秘密にする。参加者以外の人に漏らしたり、悪口や噂話にしたりしない。プライバシーを守る。

・この場所が「対等な関係」となっているか、注意する。


■各グループで議論した後に、各グループの発表の時間が設けられました。各グループの発表の概要は下記のとおりです。

[グループA] 

題材:ケース④

「私たちのグループは4名のグループで、そのうち3名はよくライブの現場によく顔を出したりする人、1名はそういう場所にはそこまで行かない人で構成されたグループでした。良くライブを観にいく人たちの意見ではこの題材のようなケースは時折あったかもしれないし、想像できるなと思いこのテーマを選定しました。

まず、このような状態が放置されるとどのような問題に発展する可能性があるのか議論したところ、この状態に対して我慢が続くと、この「かわいい〜」、「セクシー」と言われたことに対して不快に感じているので、この方の音楽活動等のモチベーションに関わる、またこういう現場に行くこと自体が嫌になってしまう可能性があると思いました。

この状況を具体的どのように止めるのが良いのかということを話し合ったのですが、まず、その現場で即座に直接注意ができたら一番良いのですが、少しハードルが高い、難しいというのが全体の意見でした。もう一つはライブやMC中ではなくライブが終わった後に発言者に言う(その発言者と指摘する人との関係性等を踏まえると場合によっては難しさを感じる)、そのバンドメンバーに該当シチュエーションに対して指摘するなどコミュニケーションをとってみるなどが意見としてあがりました。」

 

[グループB] 

題材:ケース④

「私たちのグループはグループAの皆さんと概ね同じような理由でこのテーマを選定しました。

このシチュエーションを放置するとやはり先ほどと同じくこの方が今後、このような現場に行きづらく、行けなくなってしまう。また、このノリがエスカレートしてしまうことによってこのバンドのライブはこういう感じなのか、こういう感じなのだというムードができてしまい、その結果身内ノリ的なモノが発達して外から入りづらくなる空気、ムードが形成されてしまうなと思いました。

では、具体的にどのようなことができるのかということを議論しました。明確な何かということはこの時間では議論しきれませんでしたが、一つはまず気を逸らすという方法、発言者に対し例えばバーカウンターへ誘導して「一旦、何か呑みましょうよ」など、一旦そのノリ、ムードを遮断する。次に直接注意する。ですがこれも先ほどのグループと同様にハードルの高さを感じるという意見でした。また、この例によるとA子さんは我慢しているという設定ですので、直接注意した方が良いか否かA子さんに確認をした方が良いのかもしれないという意見もありました。あと、ライブ終了後に当該のバンドメンバーも巻き込んでこのようなシチュエーションに対しコミュニケーションを取る、また直接の言葉でなくともメールや手紙などで意見を伝えるのも一つの方法ではという意見がございました。」

 

[グループC]

題材:ケース②

「テーマは、このシチュエーションを放置するとどうなってしまうのかというところから議論を始めました。

まずこのシチュエーションの影響によりA子さんはこの場であったり、このムードが発生する場所に対し不快感が刻まれてしまうので、今後、行きたくなくなる、行けなくなってしまうという意見が出ました。

では、このようなシチュエーションにおいてどのようなことができるのかという議論については、まずこのテーマの文章上のシチュエーションに限って考えていくと「あまり親しくない人が」という表現があるので、もしかしたら第三者から見ていても明確にA子さんが嫌がっていると判断できる状況であると仮定すると、その場でその方への注意やその状況を遮断するなどの措置ができる可能性がある、またその現場にいたスタッフが直接言えないような風貌や雰囲気であった場合でも静止できる他のスタッフへ応援を頼む等ができるのではという意見がありました。ただ、これはあくまで解り易い状況であった場合であり、例えば親しいか親しくないのか第三者で即座に判断できない場合は即座に遮断するのではなく違和感は違和感として捉えて一度注視してみる、また一度状況は遮断した方が良さそうだと判断できるような場合はお節介だったとしても一度気を逸らすようなコミュニケーション、アプローチを取ることも必要かもしれないという意見がありました。また、お店にある程度通っていて注視する必要がある方であった場合、ハメを外したりしていないか様子を見ておく必要もあるのではないかという意見がありました。また、目に見えていない場所でそのようなシチュエーションがあったことをお伝えいただけるメールフォームやご意見箱などがあると予防策も打てるかもしれないという意見が出ている中で、今回は時間切れとなりました。」

 

[グループD]

題材:ケース②

「グループCと同じく題材として②を選定し議論しました。

放置するとどうなってしまうのかというと、まずこのシチュエーションの影響によりA子さんはこの場に行きたくない、来れなくなってしまうという意見が出ました。

本グループの議論の論点としては、お店としてやる、やれること、お客としてやる、やれることという部分で話し合っていくと、その点に関してはお店、お客という部分はどちらか一方がやるべきということではなく、気づいた人がやるのが良いという話になりました。ではその場面をケアする際にA子さん、加害者どちらに声をかけるのかという議論に発展しました。加害者側に声をかけるのは少しハードルが高いのでまず、A子さん(被害者)に声をかけて確認の後に加害者へアプローチを行うのが良いのではないかという意見になりました。またこの議論を進めて行くと、ではどうしたらA子さんが意思表示をできる場面を作れるのか、そのタイミングをどのように作るのかという議論になりました。ただ解り易い状況においては注視するのはもちろん可能ではあるが前提としてこの場合ライブを観に来ている、お店を楽しみにきている。なので大事なのはこのような状況がもしかしたら起きうるのだということをお店もお客様も認識をしておき、いかにA子さんが意思表示をするタイミングを作れるようにしていくことが大事であるという結論に今回のワークでは位置付けました。」

 

3 ハラスメント対策・防止のルール策定に向けたレクチャー・ワークショップの所感(新川拓哉)

 

まずは堀あきこ先生によるレクチャーを受講しハラスメント発生のメカニズム、またジェンダーとハラスメントの社会における構造の仕組みについてとても丁寧にご説明くださり私、スタッフ、当店関係者共々とても勉強になりました。改めて感謝させていただきます。ありがとうございます。

レクチャーの中でとても私的に痛切に残った内容として、「同じ言動や行動でも受け止め方には個人差がある」、セクシュアルハラスメント及びハラスメントの判断基準は「被害者の不快感が判断基準」といったお話で、それはジェンダーの差、年齢差による育ってきた環境の差をアップデートし続け対等な関係というものを日々意識しこれからも学び続けなければと思いました。

またレクチャーを踏まえたワークショップにおいても当店におけるルール策定に結びつきそうな、また実際に取り入れられそうな事柄も出てきましたので引き続き当該のルール策定とその先、ハラスメントが発生しない、させないことはもちろんのこと、発生した際に対応、議論できる環境作り風土作りを行っていきたいと考えております。



4 今後に関して

 

今回のレクチャー・ワークショップを踏まえて、当店では、堀さん、Aさんの代理人らと打合せを実施し、次回以降の進め方についてご相談しました。

 

打合せを踏まえて、次回も、再度、堀さんにご登壇いただき、今回のレクチャーからさらに掘り下げた内容のレクチャーを行っていただくことに決定いたしました。次回の日程は、2023年8月23日になります。レクチャーの詳細が決まりましたら、改めて当店のウェブページ等で告知させていただきます。

 

また、次回のレクチャーが順調に進んだ場合には、次々回で、当店における「ハラスメント対策・防止のルール」の具体的な案について、参加者の皆さんで議論をし、ルールのβ版を策定したいと考えています。

さらに、ルールのβ版を発表した後は、実際に当店でルールがきちんと運用されているのか、足りないルールはないのか、より良い運用方法はないのか、といった点について見直すべく定期的にワークショップを開催し(現状では半年ごとの開催を考えています)、当店のスタッフだけではなく、当店を利用される方々にも参加していただきながら、議論をしつづけることのできる場を設けていくようにできればと思っております。